中臣鎌足
盤上の静寂を切り裂き、新国家の布石を打った深淵の対局者
7世紀半ばの飛鳥。海を隔てた大陸では唐が台頭し、東アジア全体が激動の渦に巻き込まれていました。この巨大な外圧に対し、急進的な路線で国のかたちを作り変えようとする蘇我氏と、それに反発する国内氏族たちの入り組んだ利害が激しく衝突し、朝廷は先の見えない混沌とした盤面と化していました。
この魑魅魍魎がうごめく情勢に対し、武力という直線的な力ではなく、知略によって歴史の潮目を静かに変えた人物がいます。のちに藤原氏の始祖となる中臣鎌足です。
彼はまず深い学びに没頭しました。南淵請安の私塾に通い詰め、大陸の最新の思想や兵法を貪欲に吸収します。そして、法興寺での蹴鞠の会。中大兄皇子の脱げた靴を拾い上げるという些細な振る舞いをきっかけに相手の懐へ入り込み、やがて国家の行く末を密室で語り合う無二の同志となりました。
蘇我倉山田石川麻呂の娘を中大兄皇子に嫁がせて陣営に引き入れるなど、豪族たちの心の内を見極め、それぞれの利害を巧みに結びつけながら、乙巳の変という歴史の転換点を演出した鎌足。彼の遺した足跡には、人間の情理を解き明かし、混沌とした派閥抗争を一つの秩序へと収束させていく冷徹さと熱情が同居しています。
— noteの記事の導入部分より