蘇我入鹿
時代を急ぎすぎた悲劇の建築家
海を越えた大陸で、巨大な帝国が暗雲のように広がり、東アジア全体を呑み込まんとする嵐の予兆が立ち込めていました。時の飛鳥。血縁という緩やかな連帯に安住し、互いの権益を主張し合う古い豪族たちの姿は、迫り来る激動の前にあまりにも無防備でした。「このままでは、大和は沈む」。その時間的切迫感を胸に、誰よりも早く強固な大屋根の完成を急いだ男がいます。
長らく乙巳の変の凶刃に倒れた「逆臣」として歴史の影に追いやられてきた蘇我入鹿。しかし現代の歴史学は、彼が甘樫丘に築いた邸宅を「上の宮門」と称し、王権をしのぐほどの強権を用いた中央集権体制のシミュレーションを先行して行っていた事実を照らし出しています。圧倒的な権力を一点に集中させ、古い秩序を容赦なく叩き折った彼の冷徹な足跡には、東アジアの激流の中で大和がいかにして自立を保つかという、冷徹な現実主義に基づく強烈な使命感が刻まれています。
— noteの記事の導入部分より