龐涓
相手を落としても、不安は消えない。無敗の将軍が陥った「他者の光を奪う」という罠
日暮れ、狭く険しい馬陵の道。
無敵を誇った将軍は、樹皮を削り白木にされた一本の木を見つけます。暗闇の中、そこに書かれた文字を判別しようと、自ら火を灯しました。一度の敗北が命取りとなる苛烈な時代に、無敗を義務付けられた男だけが、己の死を決定づけるその灯りをともしてしまったのです。
彼の名は龐涓(ほうけん)。戦国時代中期、中華の心臓部である「魏」の強大な軍隊を率い、周辺諸国を次々と打ち破って国の覇権を確固たるものにした大将軍です。
しかし、冷徹で合理的な無敗の軍略家であったはずの彼は、かつて共に兵法を学んだ同門・孫臏(そんぴん)の底知れぬ知略に直面したとき、激しい恐怖と執着に呑み込まれました。自らの地位を脅かすその両足を凄惨な罠で奪い、最後には致命的なまでに己自身の視野をも狭めていきます。
彼の内側で、一体何が暴走していたのでしょうか。
— noteの記事の導入部分より