呉起
勝利にすべてを捧げた、純然たる「理」の刃
母との別離に際し、「大臣になるまでは帰らない」と腕を噛みちぎって誓ったその日から、彼の歩む道には一片の情も入り込む余地はなくなりました。
中国戦国時代。魯、魏、楚という三つの大国を渡り歩き、そのすべてで比類なき軍隊を創り上げた稀代の兵法家、呉起。彼は勝利という頂へ到達するためならば、妻を手に掛けることすら躊躇いませんでした。母の訃報に接しても帰郷せず、恩師から破門される。後世の歴史家は彼を「残忍薄恩」と切り捨て、その人間性を否定し続けたのです。
だが、戦場に立つ彼は別の顔を持っていました。一番下っ端の兵卒と粗食を分け合い、地べたに眠り、兵の背中にできた腫れ物の膿を口で吸い出してやった。その話を聞いた兵の母は、「あの将軍の元では、息子は命を惜しまず戦って死ぬだろう」と泣き崩れたといいます。
冷酷な野心家か、兵を愛した慈将か。彼の中に矛盾はありません。すべての振る舞いは、ただ「勝つ」という一点へ向けて不純物を削ぎ落とし、純然たる刃を鍛え上げるためのプロセスに過ぎなかったのです。
— noteの記事の導入部分より