アスパシア
声なき場所で時代を動かす引力
紀元前5世紀のアテナイ。
そこは、自由な市民たちが広場で政治を論じ、民主主義の礎を築いたとされる、黄金時代のただ中にありました。 そのまばゆい光の裏側で、女性という存在は徹底して不可視化されていました。ましてや異国の地から来た女性に、自らの名で何かを残す権利など一欠片も存在しなかったのです。
そのような分厚い壁の奥底に、アスパシアはいました。 彼女は政治の場で自らの声を持つことが許されない存在でありながら、当時の最高権力者であったペリクレスの伴侶として、そして知のサロンを主宰する者として、アテナイの政治と哲学の方向を背後から定めているのではないかと、後世の哲学者にすら想像させるほどの異様な存在感を放っていました。
この絶対的な指導者は、毎日公務へと赴く際と帰宅した際の二度、必ず彼女に口づけをしたと記録されています。 感情を押し殺すことが美徳とされた厳格な家父長制の社会において、それはあり得ない光景。彼が唯一、公的な世界の境界線を越え、その重い鎧を脱ぎ捨てていたのは、一人の外国人女性の前だけでした。 彼女の内側で、一体何が起きていたのでしょうか。
— noteの記事の導入部分より