アレクサンドロス
「剣で世界を縫い合わせる」焦燥の王。境界線を消し去った愛の狂気
焦熱の砂が足に絡みつくゲドロシア砂漠。
干上がり、死を待つばかりの過酷な撤退行軍のさなか、一人の兵士が泥水の中から掬い集めたわずかな水を兜に入れ、王へと差し出しました。 王として、そのすべてを独占できる立場の人間。
しかし彼は「私一人だけが飲むわけにはいかない」と告げ、全軍の目の前でその命の水を地面に注ぎ捨てます。 数万の兵が苦しむ中で、自分だけが喉を潤す特権を拒絶し、全員と同じ「死の渇き」の底にとどまることを選んだのです。
紀元前4世紀。
無敵を誇ったペルシア帝国を打ち破り、ギリシアからインドに至る広大な世界をわずか10年余りで駆け抜けた若き覇王・アレクサンドロス。
彼はただ武力で領土を広げただけの略奪者ではありませんでした。
勝者としての特権を自ら手放し、被征服者の文化や血縁までもを自らに同化させようとしたのです。誇り高き同胞たちの目には、それは狂気に近い異端の姿として映りました。
なぜ彼は、これほどまでに強引に世界をひとつの杯に溶かそうとしたのでしょうか。その圧倒的な覇業の底には、「世界が再び切り離されてしまうこと」への、凍えるような怯えと祈りが横たわっていました。
— noteの記事の導入部分より