マルクス・ユニウス・ブルータス
理念に殉じた共和政最後の守護者
紀元前1世紀、動乱の渦中にあった古代ローマ。
絶対的な権力を握りつつあった独裁官カエサルに対し、政治家マルクス・ユニウス・ブルータスが立ち上がりました。内戦で敵対した自らを手厚く赦免し、異例の抜擢で立場を引き立ててくれた指導者を、その手で討ち果たしたこの男は、アカデメイア派の哲学を深く修めた知識人でもありました。
単なる権力欲や野心からではありません。彼を動かしたのは、個人的な恩情や目前の平和に優先して、古代からの倫理規範と共和政の理念を守り抜くという信念でした。
紀元前44年3月15日。長衣の下に刃を潜ませてポンペイウス劇場の議場へ足を踏み入れた彼は、無計画に短剣を振り回す同志たちの刃が交錯する狂乱の最中にあり、自らも手に痛手を負いました。かつて大義のために従いながら、敗戦の末に降伏して袂を分かった――その父の仇ポンペイウスの彫像。その足元へ崩れ落ちる恩人に、彼は刃を突き立てたのです。他ならぬ彼が刃を向けるのを見たカエサルは、自ら長衣で顔を覆って抵抗を諦めました。その直後、ブルータスは血に染まった短剣を掲げて自由を宣言したのです。
指導者の血をその手に浴びながらも、暗殺者たちの精神的支柱として古の規範を信じ抜いたこの男の内側で、どのような思考と構造が働いていたのでしょうか。
— noteの記事の導入部分より