阿倍比羅夫
止まらぬ推進力が、勝利と大敗を同時に引き寄せた
飛鳥時代、まだ見ぬ辺境の地へ大和朝廷の威光を運んだ将軍が、阿倍比羅夫(あべのひらふ)です。
斉明天皇の命を受けた彼は、日本海を北へと進み、蝦夷(えみし)を慰撫し、さらに北の異民族である粛慎(みしはせ)と交戦して彼らを退けました。海流は冷たく、地形は未知。地図すら定かではない時代に、彼は船団を率いて秋田や津軽に拠点を築き、後方の郡として統治の楔を打ち込みました。
しかし、彼の航跡に刻まれているのは、勝利の栄光だけではありません。朝鮮半島での権益を賭けた白村江の戦いでは、後将軍として水軍を率いて出撃しました。唐・新羅の圧倒的な連合軍の前に船団は炎に包まれ、大敗を喫しました。波濤を越え続けた将軍は、敗戦後、太宰帥(だざいのそち)として防人たちと共に九州の防衛線を死守する役割を担いました。
未知の北域への果敢な進撃と、炎に沈んだ海峡。今回は、波を裂き続けたこの将軍の行動の源泉を紐解いていきます。
— noteの記事の導入部分より