冉求(子有)
理想の星を仰ぎながら、非情なる現実の手綱を握った「百乗の宰」
老齢の恩師を故郷へと呼び戻したのは、他ならぬ彼でした。
「あいつは私の弟子ではない。お前たち、太鼓を鳴らしてあいつの罪を並べ立て、大いに攻め立てるがよい」
やがて彼が全身に浴びることになる、激しい絶縁の言葉です。儒教の祖であり、常に「仁」と「徳」による理想の治世を説いた孔子。諸国を十四年間もさまよっていたその恩師を魯国へと迎え入れる道を切り開いたのは、後に名指しで破門を宣告される当人でした。
時代は春秋時代末期。魯国は名目上の君主の権威が失墜し、実権は国軍を分割して統べる重臣たちに奪われ、中でも季孫氏が最大の権力を誇っていました。冉求はその最大権力者のもとで、筆頭家老として家政を統べる実務を回し続けていたのです。
理想を説く恩師を救うための「現実の成果」が、結果的に恩師の教えを最も深く裏切る刃となる。乱世において、自らの手で連れ戻した人に、自らの手で断たれるという残酷な因果を引いた一人の男の軌跡を紐解きます。
— noteの記事の導入部分より