道鏡
たった一人を救い上げる祈りが絡みつく、藤蔓の沈黙
奈良時代の平城京。
血統と家格が絶対視され、皇胤のみが玉座を約束されていたこの時代において、皇族でも大貴族でもない一僧侶が、太政大臣禅師、さらには法王という最高権力の座にまで昇り詰めました。女帝・称徳天皇の傍らに寄り添い、共に国政を動かした男、道鏡。
しかし、同時代の貴族たちが彼に向けた恐怖と嫉妬の眼差しは、ある日を境に唐突に行き場を失います。
唯一の庇護者であった称徳天皇が崩御した直後。彼は自らが握っていた絶大な権威を行使することも、反乱の狼煙を上げることもありませんでした。ただ下野国薬師寺への左遷という過酷な沙汰を無言のまま受け入れ、静かに都を去っていったのです。血縁と権力闘争がすべてを支配する荒野にあって、彼だけが、最高権力の頂点から一切の未練を見せずに降りていきました。
彼がその手に握りしめていたものは、権力への野心だったのか。
あるいは、もっと別の静かな祈りだったのか。
権勢の頂から一瞬にして消え去った男の内側で、どのような声が響いていたのかを辿ります。
— noteの記事の導入部分より