坂上田村麻呂
守ろうとした手で死地へ送る
平安京の中枢、天皇を頂点とする公卿たちが並ぶ冷徹な空間に、ひとつの怒声が響き渡りました。
「彼らの願いを容れ、彼らの力で東北の仲間たちを平定させるべきだ」
声を上げたのは、長年にわたる泥沼の戦いを制し、蝦夷を平定したばかりの征夷大将軍・|坂上田村麻呂《さかのうえのたむらまろ》です。
朝廷が「野性獣心、反復無定」と忌み嫌い、打ち倒すべき獣とみなした敵将・阿弖流為(アテルイ)と母礼(モレ)の助命を、軍の最高責任者である彼だけが真っ向から嘆願していました。国家の武力を象徴する絶対的な将軍が、手柄の首を差し出すのではなく、敵と共に生きる道を都の中心で叫んだのです。
しかし、その祈りにも似た反論が聞き入れられることはありませんでした。
天皇の命令に逆らう権限など、一介の実務官僚であり武門の家柄である彼には与えられていませんでした。なぜ彼は、どうすることもできない巨大な壁を前に、自らが捕らえた敵将の命を守ろうとしたのでしょうか。
— noteの記事の導入部分より