李悝
感情を排し「正解」を刻む。冷徹な機構が奪った人間の余白
春秋時代から戦国時代への過酷な移行期。
強国に四方を囲まれた絶望的な状況のなかで、魏の文侯に仕えて法制や農政(尽地力之教)を整える抜本的改革を断行し、戦国時代最初の強国へと導いた政治家がいます。李悝(りかい)です。
道徳や精神論が重んじられる時代に、彼は異様な法令を布告しました。
「判決のくだせない疑わしい訴訟の勝敗は、弓を射て的に命中させた者を勝訴とする」。
法と正義を司る裁判において、いくら証拠不十分とはいえ、あえて弓の腕前という無関係な武技を勝敗の基準にしたのです。一見すると狂気にも思えるこの不条理な法令のもと、人々は己の利益のために必死に弓の修練に励みました。彼は人間の生々しい欲望と利己心を逆手にとり、それをそっくりそのまま国家の防衛力へと変換する情を排した機構を立ち上げたのです。
古い権威や情実が支配する世界で、なぜ彼だけが感情を削ぎ落とした仕組みを設計できたのでしょうか。
— noteの記事の導入部分より