墨子
愛を説く博愛主義者が、誰かを傷つけた矛盾。「守り抜くこと」の残酷な代償
紀元前の中国。血で血を洗う春秋戦国時代。
身分や血縁に基づく階層秩序を真っ向から否定し、すべての人間への普遍的な愛と「非戦」を唱えた一人の思想家がいました。墨子(墨翟)です。
しかし、彼はただ机上で理想を語るだけの人物ではありません。平和を説きながらも、自ら高度な防城兵器を設計し、弱小国を守るための武装教団を率いて、血生臭い防衛戦の最前線で指揮を執り続けたのです。
同時代の他者の目に、その姿はどう映ったのでしょうか。
愛を説く者が、なぜ死地に飛び込み、凄惨な戦いを率いるのでしょうか。
大国である楚が、新兵器を用いて小国・宋を侵略しようとしたときのこと。
彼は十昼夜休まず歩き続け、大軍が動く寸前の敵国の王宮へただ一人で乗り込みます。そして楚王と天才技術者の前で、帯と木片を使った盤上の模擬戦を展開。敵のあらゆる攻撃戦術を論理的かつ物理的に防ぎ切り、侵攻そのものをその場で断念させたのです。
彼の内側で、一体何が起きていたのでしょうか。
普遍的な愛を祈る心が、なぜ鋼鉄のような軍事防衛の実行を命じたのか、その実像に迫ります。
— noteの記事の導入部分より