ヘロドトス
稀代の「嘘つき」か、人類の記録者か。曖昧さを愛した「歴史の父」
紀元前5世紀、ギリシャの小都市国家群と、オリエントを統一した巨大なペルシア帝国という、全く異なる二つの世界が激突しました。 のちに「歴史の父」と称されるヘロドトスは、この未曾有の大戦がなぜ起こったのか、その真実を追い求めた人物です。
しかし、彼は書斎の片隅に籠もって古い記録を書き写すだけの孤独な記録者ではありませんでした。 エジプトの灼熱の砂漠から、黒海の荒涼たる辺境、そして神秘に包まれたバビロニアに至るまで、彼は広大な世界を己の足で踏破しました。
各地の市場で交わされる異国の言葉に耳を傾け、人々が語り継ぐ神話、奇妙な風習、戦いの生々しい記憶を、乾いた大地が雨水を吸い込むように貪欲に吸収していきました。 「私には語り伝えられたことを語る義務はあるが、それをすべて信じる義務はない」。 彼はそう記し、眼前に提示された証言の真偽を即座に裁断して切り捨てることはしませんでした。
彼が残した著書『歴史』は、単なる勝者の記録や事実の無味乾燥な羅列にとどまらず、人間の果てしない業と多様性を活写した壮大な物語として、今もなお色褪せない熱を放っています。
— noteの記事の導入部分より