龍且
「猛火の忠誠」と、自負が招いた濰水の悲劇
紀元前203年、濰水(いすい)のほとり。大地を揺らす兵馬の咆哮の中、一人の猛将が濁流へと躍り出ました。
西楚の覇王・項羽の右腕として武名を轟かせた男、龍且(りゅうしょ)。彼はかつての同僚であり、いまや漢軍の総大将となった韓信を討ち取るため、味方の制止を振り切って水柱を上げます。
「韓信など、他人の股をくぐるほどの臆病者ではないか」
その言葉には、絶対的な自信と、覇権を争う戦いへの飢えが滲んでいました。しかし、その一直線の突進こそが、稀代の戦術家・韓信が仕掛けた死の罠でした。せき止められていた川の水が鉄砲水となって押し寄せ、楚の二十万の大軍は水底へと沈んでいきます。無残な敗北。しかし、死の瞬間まで彼の眼差しに後悔の色はなかったはずです。すべては己が信じ抜いた主君のため。不器用なまでに真っ直ぐに燃え尽きた将の軌跡を、ここに辿ります。
— noteの記事の導入部分より