李牧
「臆病」を武器に国を救い、王の命を拒んだ不敗の将
「あいつは臆病者だ」。
国境の兵士たちは愚痴をこぼし、敵である匈奴は彼を嘲笑い、ついには主君である趙王すらも激怒し、彼を前線から引きずり下ろしました。
しかし、悲劇はすぐに起こります。後任の将軍が血気にはやって出撃した結果、軍は幾度も大敗を喫し、国境地帯は略奪の炎に包まれました。甚大な被害を前に自らの非を悟った王は、病を理由に固辞する彼に対し、幾度も頭を下げて復帰を懇願するしかありませんでした。
「私のやり方に一切口出しをしないと誓うならば、お受けしましょう」。
戦国時代末期、強国・秦の猛威の前に風前の灯火となっていた趙。その命運を再び託された将軍、李牧。陣頭に舞い戻った彼は、戦場においてまたしても「戦わないこと」を徹底しました。敵がどれほど挑発しようとも城門を固く閉ざし、ただひたすらに兵へ牛を振る舞い、弓を射る訓練だけを繰り返させたのです。血気盛んな者たちからは再び蔑まれる、屈辱と忍耐の日々。
しかし、復帰から数年の沈黙の果てに、彼が一度だけ抜き放った刃は、十万を超える匈奴の軍勢を綺麗に呑み込み、その後数十年間にわたり北方の脅威を完全に消し去るほどに凄惨で、完璧なものでした。王の権威すらも退けて己の陣地を守り抜いた、動かない将軍の胸の奥底。そこには、一体どれほどの熱量の炎が静かに燃え続けていたのでしょうか。
— noteの記事の導入部分より