タレス
溝に落ちて星を掴む。空を見上げ続けた「最初の哲学者」の真理
夜空の星の動きに夢中になるあまり、歩きながら足元の溝に落ちてしまった一人の男がいました。泥だらけになった彼を見て、奴隷の女は「天のことは知ろうと熱心なのに、自分の足元のことは全く見えていないのですね」と笑いました。
しかし、この「現実が見えていない」と嘲笑された男は、のちに天文学の知識から次の秋のオリーブの大豊作を予測し、冬のうちに搾り機を安値で独占して莫大な利益を上げることになります。彼は、その気になれば世間の誰よりも正確に現実を見抜き、富をたやすく手に入れる力を持っていました。
紀元前6世紀の古代ギリシャに生きたこの男の名は、タレス。
地震や日食を「神の怒り」とするのが当たり前だった時代に、神話の解釈を捨て、「万物の根源は水である」と自然の原理で世界を説明しようとした最初の哲学者です。世俗的な成功をいとも簡単に手に入れられる圧倒的な知性を持ちながら、あえてその富への執着を捨て去り、生涯独身を貫きました。
人々が必死に追い求める富や家族といった、当たり前の「足元の幸福」に背を向け、彼がただ一人で見上げ続けていた星空には、いったい何が映っていたのでしょうか。
— noteの記事の導入部分より