中国・秦漢
劉邦
無才という名の最高の器、すべてを包み込む「人の海」
歴史の荒波のなかに、何色にも染まらず、どんな形にも定まらない「巨大な空洞」のような男がいました。
秦という強大な秩序が崩壊し、誰もが自らの武勇や知謀を競い合った時代。
農民の出である劉邦には、宿敵・項羽のような圧倒的な武も、天才軍師のような智略もありませんでした。しかし、その「無才」こそが、彼の最大の武器でした。
追手から逃れるために、馬車を軽くしようと実の子供を何度も突き落とす。
王者の誇りも、親としての倫理も、彼はあっさりと手放して生き延びようとしました。
守るべき「自分」という形を持たない。その底知れぬ空白が、いつしか大陸中の異能たちを吸い寄せ、血と泥を巻き込みながらすべてを呑み込む「人の海」となって広がっていきます。
— noteの記事の導入部分より