ネロ
役割を脱ぎ捨てて喝采に殉じた狂王

古代ローマ帝国、ユリウス=クラウディウス朝末期。
十六歳という若さで広大な帝国の頂点に立ち、血塗られた権力闘争に自らも手を染めながら、その重圧から逃れるように芸術という熱狂に身を投じた第五代皇帝ネロ。最高権力者としての威厳をかなぐり捨ててまで、彼は狂気めいた美への渇望と拍手への執着を見せました。
国家の屋台骨が揺らぐ時代にあって、彼だけが焼け焦げた帝都を、己の美意識を満たすための巨大な舞台の書き割りとして見つめていました。ローマ大火の黒煙がくすぶる焼け跡に、贅を尽くした黄金の宮殿を築き上げる。その瞳には、陰謀にまみれた玉座ではなく、自分が輝くための完璧な空間だけが映っていました。
すべてを焼き尽くすほどの芸術への渇望に身を委ねたとき、彼の手の中で、冷たい権力はどのような音を立てて崩れていったのでしょうか。
— noteの記事の導入部分より