ジル・ド・レ
純黒の坩堝(るつぼ)を燃やし尽くした青髭
十五世紀のフランス。百年戦争の暗雲が立ち込める大地で、救国の聖女ジャンヌ・ダルクの傍らには、常にこの男の姿がありました。フランス最高位の軍人としてオルレアン解放の最前線を切り開き、莫大な私財を惜しみなく投じて祖国の危機を救った英雄、ジル・ド・レ。彼は間違いなく、当時の欧州において最も輝かしい武勲と富を誇る騎士の一人でした。
しかし、聖女がルーアンの広場で火刑の煙に消えた後、彼の描く軌跡は反転します。軍を退き、領地のマシュクール城などに引きこもった彼は、莫大な富を浪費して錬金術の怪しげな煙に巻かれ、やがて無垢な命を奪うという凄惨な儀式へと沈み込んでいきました。
栄光の頂点を極めた美しき騎士から、後世に「青髭」のモデルとして語り継がれる大罪人へ。彼の生涯は、極端な光と影を共に飲み込み、内部で沸騰し続けた巨大な坩堝(るつぼ)のようです。何がその炎をそれほどまでに燃え上がらせ、何が彼を底なしの闇へと導いたのでしょうか。
— noteの記事の導入部分より